雨と風と雷と 蛍の光に追いたてられるように、発光ダイオードの地球儀を見ながらスロープを下りてく。 出口の所に人だかりが出来てて、それで外が大雨なのを初めて知った。 時折、雷が光って雨足が強まる。そんなわけで、傘を持たないボク等はそこで足止め。 今、時計は5時を回った所。 そっと隣の君の様子を伺うと、俯き加減、ボクに分らないように小さく溜め息をついていた。 日本科学未来館。何かの話しのついでにそこの話題が出て。 この辺に住んでるボク達にはもうあまり魅力的な場所とは言いがたい。 だって休みの日なんか小さい子供達がわんさと居るし、ボク等位の子供だけで行くにも、なんだか優等生っぽいスポットだなんて敬遠されつつあったり。 それがなんで今日ボクが、一乗寺くんなんかとここに居るのかって。 選ばれし子供達のうちの誰か、それを言い出したのが京さんだったか。 前に科学未来館で、宇宙飛行士毛利衛さんと、エスカレータですれ違ったって自慢してて。 そりゃ、すれ違いもするだろうよ、だって毛利さんはあそこの館長なんだからねって、至極当たり前の言葉を返したら。 何人かが「ええっ!?」と派手なリアクション。 「君達、フロア・マップとか貰ったら、ちゃんと目を通しなよね」なんてボクはちょっぴりいい気分で。 そしたら「会いたい、会いたい」の大合唱なんてミーハー丸だしもいい所。 行ったら必ず会えるわけじゃないのにって言っても、彼ら全然アレだし。 ぼやぼやしてる間に、日程が決まり、集合時間が決まり。 それが当日蓋を開けたら、ボクと一乗寺くん以外は、何故だかみんな都合が悪くなりましたなんて、騙まし討ちにでもあった気分。 そう思のはボクだけじゃないと思うからこそ、時々君の顔色をこっそり伺ってしまう。 展示を見てる君の瞳が興味深そうに輝いてるのを見たら、どっかほっとしてる自分を発見して、なんかやだな、なんて。 ボクが誘ったわけじゃないのに、楽しんでるかどうか気にして、卑屈になってるみたくて。 「あのさ、あれ乗ってみようよ」 5階の「モーションライド」なんだかどういうシステムかは良くはわかんないけど。 要するに8人乗りの乗り物。前面のスクリーンを見ながら、座席に座って、で動くの。 よく遊園地とかにもあるじゃない、扉閉めたら閉鎖空間になっちゃう、あれがハイテクな感じで動いてるらしいヤツ。 6分ほどで終わって、やっぱり大した事なかったねなんて一乗寺くんを見たら、真っ青な顔してて。 画面酔いしちゃったなんて言うもんだから、座れるところでちょっと休んだり。 「水飲む?あ、それともなにか買ってきてあげようか?」 手にしたペットボトルを勧めかけて躊躇したボクに、一乗寺くんは微かに微笑んで首を横に振る。 ボクは君の横に座り、もう大丈夫の言葉を待つその間、落ちつかない数分を過ごした。 直に気分が良くなった一乗寺くんとボクは、それなりに楽しんで一日を終えようとしていた。 雨がこれほど降ってなければ、今ごろは手を振って別れたであろう時間。 日差しが戻って来てるのに、一向に止む気配のない雨。 ボク達は屋根のある場所で雨宿りしながら、そろそろ暇を持て余してきて。 どこか遠くを見つめる一乗寺くん。 風の方向によって、たまに強く吹きつけてくる雨を気にしてボクは一乗寺くんの腕を軽く引いた。 「あっ!」 ボクの手が触れたと同時に、一乗寺くんは小さく声を上げた。 ボクは驚いて手を引っ込めて彼を見る。 勢い良く振り向いた一乗寺くんは、目を輝かせて嬉しそうに空の彼方を指差す。 彼のこんな笑顔を、果たしてボクは今まで目にした事があったのだろうかなんてしばらく呆然としてしまう。 そんなボクに焦れた一乗寺くんは、周りの人の反応もものともせずに。 「ほらっ!虹が。虹が二重に掛かってる。すごい…すごい綺麗だ」 顔を上げて見上げた空には、ほんとに今まで見た事のないくらい、クリアな虹が。 一つの虹の上に、覆い被さるようにもう一つ。 雨も雷も、風も、もうボクにはどうでも。ほんの僅かな偶然がもたらした、短いひととき。 ほらね、ちゃんと真面目に生きてれば、ボクにだってこんないい事。 END / BACK |