失神ゲーム(裏裏)




眠りが浅くなる瞬間、夢と現の狭間を漂う浮遊感。いつもだったら、賢はそのあいまいな感覚に長く身を置くはずだった。なのに、今日は妙な違和感が賢の意識を急速に明るい表層へと引き上げた。明け方に見る夢−篭った熱が出口を求めて体内をさ迷うような−そんな柔かな快感を伴った感触。

(でも、いつもより何倍も気持ちいいかも。だって……出ちゃいそう!)

覚醒しきれない意識の中で、賢はその感覚に溺れそうになった。快感は大きなうねりとなって、賢を飲み込もうとする。うねりは、抗う賢のささやかな抵抗さえものともせず、その腕の中に取り込み、翻弄する。そして快感が腰を中心に背中を駆け上がり、指の先まで余す所なく全身を覆い尽くす頃になると、賢は抗う事はやめ、波に身を任せた。大きくせり上がって来る感覚、開放まで秒読みの段階。堪らず、喉の奥から声が漏れた。そうする事によって、賢は薄紙を剥ぐように覚醒まで一息に辿りつく。意識の表層に浮かび上がり目を覚ましたものの、今自分に何が起こっているのか、賢には全く理解出来なかった。なのに、下腹部に滞る熱は、その感覚が夢でも幻でもない事を強く知らしめる。

(こんなの……嘘だ!)

賢は心の中で、大きく叫んだ。しかしそれが夢でないという証拠に、耐えきれず一瞬のちに賢は、高石タケルの咥内に精を放ってしまっていた。確かに目の前で、タケルは賢の放ったものを嚥下し、そして……。驚きのあまり言葉もない賢に視線を合わせて、にこりと笑った。あまりに自然なその笑顔に圧倒されて、賢は混乱した。混乱に乗じて自分の体がうつ伏せにされる事にも抵抗出来ずに。賢の秘された場所に、タケルは迷う事なく触れた。

「ちょっと待って!いったい何をっ!……」

流石に賢が抗議の声を上げた。半身起こしてタケルを振り返る。段々と記憶が鮮明になり、自分の置かれた理不尽な状況にようやく気付いたのだ。さっきまで、3人でちょっとした意地の張り合いに……。なのに今、高石と二人きり、今自分は半裸の状態でなんという事を。

「君は意識を失っちゃったのさ。大輔くんは慌てて飛び出して行っちゃった」
「意識を?!」
「大輔くんは責任感じて、君の意識を取り戻す方法聞きに行くって」

そこでタケルはくすっと笑い声を漏らした。伸ばした指先で、賢の胸の敏感な部分に触れる。感覚が鋭敏になっていた賢は、思わず身を竦ませた。その反応を見て、タケルが笑みを深くした。

「君が意識を取り戻したのは、ボクの機転のおかげ。感謝してもらわなくちゃ」

そう言うと、賢の体をゆっくりと後ろへ押し倒す。横たわった賢の体に跨って、タケルは見下ろす恰好になる。

「いやだっ!」

賢が思わず身を捩り、自分の上からタケルをどかそうと試みる。しかし、そんな賢の抵抗は却ってタケルの嗜虐心を呷るだけ。

「さっきまで素直で可愛かったのに。気持ち良くして上げたでしょ」

そういって萎えた賢のその部分を握り込むと、途端に抗議の声も抵抗も止む。人の手にされる感触、そのあまりの快感の強さを賢の体は覚えていた。タケルの指が再び、賢の奥まった場所を探る。ほんの少し痛みを覚えて、賢の体が竦む。構わず、タケルは行為をエスカレートさせ、再び芯を持ち始めた前を緩く握り込んで、片方の手ではそろそろと秘された場所を撫でていく。その部分に指を当て、強く押し込む。堅く閉ざされたそこは異物の侵入を拒んだものの、前を握る手に力を込めれば、自然と抵抗も緩む。その隙に指を潜り込ませる。熱くて狭くて、湿った感触。賢が溜め息のような吐息を漏らす。握りこんだ賢自身、すっかり昂ぶったそこ、先端の窪みに溜まった透明な雫を、指先でくるくると撫で広げれば、賢の体から力が抜ける。今や賢は瞼を閉じて快感を追い、そこだけに意識を集中して。

「駄目だってば……出るっ。……離せ!」

最後の砦ともいうべき言葉はもは迫力を失い、上滑りして行く感触だけを残すのみとなる。喘ぎが抗議の声にとってかわるのにそう時間は掛からなかった。びくびく震える体を持て余して、賢は徐々に諦めの境地に至る。いくら言葉で拒絶を示しても、体は流されてる。痺れにも似た快感に溺れて、息する事さえ声を出すことさえ、快感に結び付く。異物感はしまいには圧迫感を伴う強い快感となり、賢はそれらを全て受け入れた。長い指が引きぬかれてタケル自身が入ってきた時には、賢は息を詰めてただ受け入れるだけしか。体の奥までタケルに貫かれても、シーツを掴んで耐え、思うことのひとつも言葉にはならない。後ろをゆっくり擦り上げられながら、前を弄られると、理性が吹き飛ぶ。散々声を上げさせられて、体が痙攣する感覚が狭まってくる。あっと思う間もなく、再び賢は弾けさせていた。と同時に、背後のタケルの体にも震えが走る。そして今まで悩まされた圧迫感も消え、ようやく賢は安堵の息を吐いて、ベッドに突っ伏した。

「少しおやすみ」

タケルの指が賢の髪に差し込まれて、本当のところそれを振りほどきたいのか、それともこのままその感触を味わっていたいのか、それさえもあやふやになる。脱力感を持て余した賢は、もう答えを出すことを放棄して、重くなる瞼をそっと閉じた。



次ぎに目を覚ました時には、心配そうな顔をした大輔が賢の顔を覗き込んでいて、それが先ほどの行為をまざまざと賢に思い出させた。自分が居ない間にこの部屋で何が起こったのか知らない大輔の無邪気な様子に、賢は知らず頬が赤くなるのを感じ、それを恥じてそっと顔を背けた。タケルは知らぬ素振りをしていたので、賢は先程の事が夢であったらいいのにと願ったものの、体の節々に残る倦怠感がそう思わせてはくれなかった。誰にも気付かれないように、賢は腰のあたりをそっと擦ったのだった。



                      end






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