夜のエーテル








潮も叶いぬ―




白い部屋の中、僕はバスローブの胸元を、我知らず強く掴んでいた。僕はローブの紐を解きながら、ベッドの足元に近付いて行く。下には何も着けてないから、バスローブを脱いだら、僕は頼りなく丸裸。足元にローブを落として、ベッドの上横たわる。視界一杯の白い色、壁も天井もシーツも真っ白で、僕は天地無用の荷物。僕の体に手が添えられて、思ったより暖かなその感触に、僕は詰めてた息を吐く。腰だけ高く持ち上げられたみっともない姿、ぎゅっと目を瞑って、何も見ない、何も考えない。シーツを掴んだ指先、痺れて感覚がなくなる。

「チカラ抜いて」

感情の篭らない声、触れ合うほど近くに聞こえる複数の相手の。僕は左右に頭を振る。だって身体が思う通りにならないんだ。

「いう事聞いてよ、賢くん」

声の中、少し苛立ちが含まれる。それでもあくまで僕の気持ちを優先してるんだって建て前。カメラを止めて、あの人が近付いて来る。バスローブを掛けてくれながら、僕を見つめるやさしい眼差し。人払いがされて、その部屋には僕と彼の二人だけになる。

「緊張してる?」

「少しだけ」

それが嘘だって事はきっとばれてる。答える間にも唇が乾いてきて、僕は舌で湿らせながら。明るい瞳の色、間違いなく似てる面差しに、僕は誰かを重ねてしまう。

「僕はあなたが…あなたなら、きっと大丈夫だと…」
「んー、それは無理―――」
「お願いだから!」

僕は言葉が終わるのを待つのももどかしく、彼の首筋に齧りつく。祈るように言葉を繋ぐ。そっと髪を撫でられる。そんな仕草さえまるで。違うのはその後、彼が僕の額に軽く口付けた事くらいだ。僕の腕をやさしく解きながら。

「だって年端も行かぬ子供に、相手がオレじゃ犯罪じゃない?ヤバい橋は渡らないの、オレ」

唖然として言葉もない僕の唇を親指で撫でて、唇を押し付ける。そして言った。

「4年経ったらまたおいで」




潮も叶いぬ2―




皮膚の柔かな部分、指先が掠める感触。我知らず、身体が撥ねてしまう。押しやろうとする手に力が入らずに、僕は自分でも信じられないような声を。胸の突起、やさしく摘ままれる。曖昧な快感のもどかしさに、腰さえ揺らめいて。それに気付いた高石の視線が、僕を打ちのめす。頬が焼け付くように熱くなる。

「僕を見るな!」

布を押し上げる僕の分身が、もう待ちきれないってふうに涙零す。恥ずかしい醜態を晒してる事は、もはや百も承知。僕の心を裏切り続ける、浅ましい体。脱ぎ捨ててしまう事が出来るのなら。

「大丈夫だよ」

低い声が囁く。高石のこの言葉はいつも、言葉の持つ以上の効果を僕に与えてくれたものだ。そして僕は、それはいまだに有効だという事を知る。高石は布地を押しのけ、隠しようのない僕の昂ぶりに手を触れた。ぬるつく感覚、触れないまでも快楽の兆候を晒す僕のそれに、ゆっくりと指を絡めて。怒涛の感情の渦の中、息をするのも忘れて、僕は溺れないように流されないように、彼にしがみ付いていた。そうしていないと、きっと自分を見失ってしまうという予感にどうしようもなく。

「あっ!あ……出るっ……」

抑えようとしても抑えきれない声と共に、高石の手の中に溢れる白濁、僕は震えながらその様を見る。そして、打ちのめされる。いつまでも慣れる事の出来ない行為。見られることには耐えられない。視線を避けてぎゅっと瞼を閉じると、頬に瞼に柔かな唇が触れる感触。かぶりを振って、詰めていた息を吐きながら声を出せば、その弱々しい響きに自分でも愕然となる。

「いや…だ。もう……そんな風に触るな」
「そんな風って?」
「軽蔑するならしてくれよ!」

高石は、手の中の残滓を確認して破願した。僕を見つめる瞳はそのままに、奥まった部分に指が触れて、今までこんなところが感じるなんて想像した事もなかった。ここ数ヶ月の愚かな僕の所業、それによって役にも立たない予備知識を仕入れた事が唯一の収穫だったなんて。ぼんやりとそんな事を思いながら大きく息を吐いて、なるべく意識をそこから引き剥がす。




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